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31.マイクロバイオーム・腸脳相関・HPA軸

市場概要

マイクロバイオーム(微生物叢)とは、地球上の様々な場所(動植物、土壌、海洋など)に存在する微生物集団のことを指す。ヒトにおいては、皮膚や鼻腔、泌尿・生殖器、消化管内などにマイクロバイオームが存在するが、腸管内に共生常在するマイクロバイオーム及びその生態系を特に腸内フローラと呼ぶ。

腸内フローラを対象とした研究は1960年代に活発に行われ、善玉菌や悪玉菌などの系統分類が行われたが、技術的な限界もあり、腸内フローラの全体像や宿主との関係を解明するには至らなかった。しかし、2000年代に入り、次世代シーケンサーの登場やメタゲノム解析技術の発展により、腸内フローラの構成割合や微生物ゲノム配列情報などの知見が蓄積されてきたことで、腸内フローラと宿主であるヒトが界を超えた情報交換(インターキングダム・シグナリング)を行い、免疫系や代謝系の調節など様々な役割を担って、共生関係にあることが明らかになってきた。

また、腸内フローラの乱れや偏り(ディスバイオシス)が、多くの疾患と関連することが明らかになってきた。炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease, IBD)である潰瘍性大腸炎やクローン病では、腸内フローラが代謝物質を介して疾患に関与している可能性が示唆されている。さらに、食物アレルギーをはじめ様々なアレルギー性疾患、糖尿病や肥満などの代謝性疾患などにも、腸内フローラとの関連が示唆されている。

腸管は、人体内全体の免疫細胞や抗体の60%が集中する最大の免疫器官であり、食物に混在する有毒な物質を排除すると同時に、腸内細菌に対しては、宿主免疫系が過剰な免疫応答を抑える経口免疫寛容が作動している。この免疫反応の抑制に重要な役割を果たしている制御性T細胞(regulatory T cell:Treg)について、慶應義塾大学の吉村昭彦・金井隆典両教授らは、プロバイオティクスとして知られるクロストリジウム属細菌の主な菌体成分であるペプチドグリカンが腸管樹状細胞を刺激してTGF-βを産生し、TGF-βによって免疫を制御するTregが誘導されて、食物アレルギーなどの炎症を抑制するというメカニズムがあることを明らかにした。

腸内フローラを正常化し、治療に応用しようとする試みはそれ以前から行われており、治療抵抗性の重症感染性腸炎に対して、患者の腸に健常者の糞便を注入する便微生物叢移植(Fecal Microbiota Transplant, FMT)を行い、治療に成功した報告論文がある。オランダのアムステルダム大学を中心としたランダム化比較試験でも、FMTの有効性が示されており、近年FMT関連の臨床試験登録は急増している。

一方、ストレスが末梢臓器に及ぼす影響についてはこれまで知見が豊富にあったが、末梢器官からのシグナルが中枢神経に与える影響については最近まで不明であった。しかし、分子生物学的手法の発展により、中枢神経(脳)と末梢器官(腸)が神経系や液性因子を通じて双方向のネットワーク(脳腸相関)を形成していることが明らかになってきた。九州大学の須藤信行教授らの研究によると、視床下部-下垂体-副腎軸(Hypothalamus-Pituitary-Adrenal axis, HPA軸)の反応性について、無菌マウス・SPF(Specific Pathogen Free)マウス・単一細菌マウスの比較から、腸内細菌叢がHPA軸の反応性を決定する重要な環境因子であることが明らかになり、腸内細菌叢の違いにより成長後のストレス反応が異なることや、腸内細菌叢が脳由来神経栄養因子(Brain-Derived Neurotrophic Factor, BDNF)や神経伝達物質濃度にも影響することなどが示唆された。

このように、マイクロバイオームや脳腸相関に関して、基礎研究を通じて様々な知見が積み重ねられ、疾患診断や治療・予防へシフトしつつある状況であるが、産業面に目を向けると、乳製品メーカーによる腸内環境を調整する製品が多数開発・販売されており、更にバイオベンチャーによるマイクロバイオーム解析サービスが始まるなど、今後の産業動向が注目される。

主な技術要素

腸内フローラ、microbiota、善玉菌・悪玉菌、ノトバイオート技術、難培養微生物培養技術、次世代シーケンサー、メタゲノム/メタトランスクリプトーム解析、メタボローム解析、インターキングダム・シグナリング、ディスバイオシス、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、制御性T細胞(Regulatory T Cell, Treg)、便微生物叢移植(Fecal Microbiota Transplant, FMT)、脳腸相関、Hypothalamic-Pituitary-Adrenal Axis(HPA軸)、プロバイオティクス、プレバイオティクス、シンバイオティクス、バイオジェニックス、プラズマローゲン

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