5年先の社会を発信するラボ
  • 5年先の社会を発信する未来ラボ
  1. TOP
  2. >
  3. 未来を創る成長領域
  4. >
  5. 19.エピゲノム・miRNA・テロメア
未来を創る成長領域

19.エピゲノム・miRNA・テロメア

市場概要

1953年にジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックがデオキシリボ核酸(Deoxyribo Nucleic Acid, DNA)の二重らせんモデルを提唱した業績により、二重らせん構造を示唆するX線回折像の提供に貢献のあったモーリス・ウィルキンスと共に1962年にノーベル医学・生理学賞を受賞した(実際のX線回折像撮影者であるロザリンド・フランクリンは1958年にがんと肺炎で亡くなっている)。

この発見により、分子生物学は飛躍的な発展を遂げ、DNAの塩基配列がタンパク質のアミノ酸配列をコードしており、その情報がリボ核酸(Ribonucleic Acid, RNA)に転写された後、生体構造や生命機能をつかさどるタンパク質に翻訳される、という生物学のセントラルドグマ(中心教義)が確立された。しかしながら、研究が進むにつれ、DNAに因らない遺伝の仕組みが徐々に明らかとなり、DNAの塩基配列の変化を伴わない後天的な遺伝子制御や表現型の変化を研究する学問として、エピジェネティクスという研究分野が新たに誕生した。遺伝学(ジェネティクス)において、生物が生命活動を行うのに必要なワンセットの遺伝情報のことをゲノム(ヒトの場合は、22対の常染色体と1対の性染色体)と呼ぶが、エピジェネティクスにおいて、遺伝子の発現や抑制に関する情報の集まりをエピゲノムと呼ぶ。

エピゲノムにおける変化とは、分子レベルではDNAのメチル化やヒストンタンパクの化学修飾(アセチル化、リン酸化、ユビキチン化など)のことであり、クロマチン構造の変化を引き起こし、遺伝情報の発現促進や抑制を行っている。例えば、白血病やリンパ腫、多発性骨髄腫などの腫瘍細胞ではヒストン脱アセチル化酵素(Histone Deacetylase, HDAC)の異常活性化が起こっており、HDAC阻害剤が治療薬として開発されている。がんだけではなく、遺伝性疾患や代謝性疾患、神経疾患などでもエピジェネティクスが発症に深く関与していることが明らかとなっており、エピゲノムが新しい創薬のターゲットとして医薬品の開発が進められている。

一方、ヒトゲノムの解析が進むにつれ、タンパク質をコードしている遺伝子(エクソン)が全体の1.5%程度に過ぎず、エクソンとエクソンの間にあるイントロンの転写制御領域も20%程度に過ぎないことが分かり、残りの8割弱は「非コードDNA領域」と呼ばれている。しかし、世界5か国の32研究機関が参加している国際的なヒトゲノム解析プロジェクトであるThe Encyclopedia of DNA elements(ENCODE)が2012年に発表した解析結果によると、ヒトゲノムの80.4%に何らかの機能があり、転写の制御に関わるエンハンサーやサイレンサー、染色体の交差部のセントロメアや末端部のテロメアなど、重要な機能を担う配列が非コードDNA領域に存在することが明らかとなった。近年、この広大な非コードDNAから生み出されタンパク質に翻訳されない非コードRNAが、複雑な遺伝子発現制御に関わっていることが明らかにされてきた。この非コードRNAには、マイクロRNA(miRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、長鎖非コードRNA(lncRNA)などが含まれる。

miRNAは20前後の塩基対からなる短鎖RNAで、相補的な塩基配列を持つメッセンジャーRNA(mRNA)に特異的に干渉し、mRNAからタンパクへの翻訳抑制を行っている。また、がんとの相関が明らかとなっており、がんの悪性度や生命予後などを予測する有望なバイオマーカーであると同時に、ひとつのmiRNAで複数の遺伝子発現の制御を行っているため、miRNAを制御することで疾患に関連する複数の遺伝子を同時に調節することができることから、新たな創薬ターゲットとしても注目を浴びている。このように、miRNAを含めた非コードRNAは、現在活発に研究活動が行われている分野であるが、その発展を支えているのが次世代シークエンサー(Next Generation Sequencer, NGS)である。NGSの最大の特徴は、その圧倒的な遺伝子解析能力である。ヒトゲノム計画では、実に13年30億ドルの月日と費用が掛かったが、NGSでは個人の全ゲノム解析をわずか数日・数百万円程度で行うことができる。NGSの塩基配列決定法は機種やメーカーによって異なるものの、従来のシークエンサーのように電気泳動を行う必要がなく、ランダムに切断された数千万から数億のDNA断片から塩基配列決定を同時並行的に行うことが可能であり、血中に含まれる微量なDNAやRNAを解析することが可能となっている。

ところで、前節の非コードDNA領域について述べた部分でテロメアについて言及したが、染色体の末端にあって、染色体同士が末端で結合するのを防ぐ役割を果たしていることは、DNAの二重らせん構造の発見に先立つ1930年初頭には既に分かっていた。その後、DNAの複製機構が明らかとなる中で、1980年代にはBlackburnらによってテロメアが単純な繰り返し配列であることが見出され、末端複製を行う特殊な逆転写酵素テロメラーゼの発見とテロメア伸長メカニズムの解明がなされた。通常の体細胞では分裂増殖の際に、テロメアが完全には複製されず徐々に短縮していくため、限界に達すると分裂ができなくなって細胞は死滅するが、がん細胞においてはテロメラーゼが活性化しており、テロメアが安定に維持されるため無限に増殖を繰り返すことになる。これらの知見が相次いで報告されたため1990年代にはテロメアは最も注目されていたが、がんだけではなく、動脈硬化や骨粗鬆症、フレイルなどの老年病とテロメアの短縮との相関が2000年代に入って報告され、2018年にはヒトテロメラーゼの構造が電子顕微鏡によって解明され、テロメラーゼ関連因子を利用した治療法開発につながるものと期待されており、再び脚光を浴び始めている。

世界的に高齢化が進むなか、既に高齢社会を迎えている我が国では、世界に先駆けた超高齢社会対策が喫緊の課題であり、老化の遅延・健康寿命の延伸のためにも老化・寿命制御研究の発展が求められている。NGSを用いた全ゲノム関連解析(genome-wide association study, GWAS)や、110歳以上の超百寿者(スーパーセンテナリアン)から樹立したiPS細胞などのツールを活かして、今後研究開発が加速していくことが見込まれる。

主な技術要素

次世代シークエンサー、マイクロRNA(miRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、長鎖非コードRNA(lncRNA)、逆転写酵素テロメラーゼ、テロメア伸長メカニズム、バイオマーカー、テロメラーゼ関連因子を利用した治療法、NGSを用いた全ゲノム関連解析、など

確かなデータに基づき、
未来を予測する。
Nikkei-astamuse 成⻑領域レポート

NIKKEI astamuse

日本経済新聞社とアスタミューゼがまとめた
有望成長領域136分野のレポート販売中!

日本経済新聞社とアスタミューゼが全世界の論文・特許、国内外の国際会議やシンポジウム、
展示会等の情報、並びに独自ネットワークによる口コミ情報を活用し、
今後10年から20年のスパンで「大きく成長が見込まれる分野」を策定。

日本経済新聞社が関連ニュースなどをまとめ、
現在と近い将来の成長分野を立体的に解説します。

「2分でわかる」成長領域レポート
パンフレット(無料)のダウンロード
レポートご購入のお申し込み
PAGE TOP