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未来を創る成長領域

18.がん医療・オンコロジー

市場概要

医学の飛躍的進歩の中でも、依然、がんは生命にとっての脅威である。政府のがん対策推進基本計画では、国民ががんの克服を目指すべく、1. 科学的根拠に基づくがん予防・がん検診の充実、2. 患者本位のがん医療の実現、3. 尊厳を持って安心して暮らせる社会の構築を目標としている。

まず、がんの克服に重要なのが、的確ながん検診による早期発見・治療であるが、現在がん検診の分野では、リキッドバイオプシーが注目されている。これは、体液サンプルに含まれる腫瘍細胞やDNAなどのバイオマーカーを使って診断を行う技術である。最近の研究では診断のマーカーとして、様々な細胞が分泌するエクソソーム(細胞外小胞)と呼ばれる顆粒が着目されている。一般的に細胞はエクソソームを介してほかの細胞に情報を伝達している。特にがん細胞が分泌するエクソソームは、細胞外の環境を変化させることにより、がん細胞の転移や悪性化に関わることが知られている。2014年には国立がん研究センターの落谷孝広分野長らのグループが、大腸がんの細胞が分泌するエクソソームが特有のタンパク質CD147を含むことを利用して、血液からの大腸がん特異的なエクソソームの検出に成功している。今後はエクソソームががん細胞の早期発見のための有効なバイオマーカーになると期待されている。

がん治療の方法は、主に外科的治療、化学治療、放射線治療があり、三大療法と呼ばれている。外科的治療においては患者に負担の少ない内視鏡手術や血管内手術が志向されており、内視鏡手術では「da Vinci」などの手術支援ロボットが用いられている。また、オリンパスなどは内視鏡手術において、人工知能(AI)により臓器や血管の位置を示すシステムを開発しており、技術革新により手術の精度向上が進んでいる。

化学治療は、抗がん剤を用いた治療法であり、現在100種以上が用いられている。抗がん剤は主に代謝拮抗、DNA合成阻害、細胞分裂阻害などによりがんの増殖を抑える。なかでもがん細胞だけがもつ特徴を標的にした薬である分子標的治療薬は近年目覚ましい発展を遂げており、非小細胞肺癌治療薬のイレッサ、慢性骨髄性白血病治療薬のイマチニブなどが使われている。現在では、患者の遺伝情報を解析し、効果的な抗がん剤の選択に役立てるプレシジョン・メディシンが主流になってきている。例えば、中外製薬が提供する遺伝子変異解析プログラム「FoundationOne CDx」では、患者の腫瘍組織を用いてがん関連遺伝子の変異情報を調べることで、最適な分子標的薬を選択できる。

放射線治療分野では、放射線をがんの病巣を狙い撃ちしながら、一方では正常組織に影響を及ぼさないようにすることが可能になってきている。現在用いられている画像誘導放射線治療は、患者の画像情報をもとに、呼吸などで動く病巣を追尾しながら正確に放射線照射ができる(三菱重工 Vero4DRTなど)。また、強度変調放射線治療は複雑な形状の腫瘍の形に適した放射線照射を行う新しい照射方法である(アキュレイTomoHDシステム)。従来用いられてきたX線などの光子線は、体の表面近くで線量が最大となるのに対して、重粒子線は体の深い部分にあるがん病巣に効率よく線量を集中させられることから、放医研や東芝などにより重粒子線がん治療装置の開発・利用が進められている。

三大療法に加えて、最近では人間の身体が本来もつ免疫機構によりがん細胞を攻撃する免疫療法が行われている。日本で承認されている代表的な免疫療法が2014年に小野薬品から発売された免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」によるものである。がん細胞は免疫細胞であるT細胞による攻撃にブレーキをかける機構をもっているが、オプジーボはこのブレーキとして働く分子PD-1を抑制し、T細胞ががん細胞を攻撃できるようにする。他方で、ノバルティスによるT細胞を活性化させるCAR-T細胞療法(キムリア)がおこなわれており、これは患者から取り出したT細胞を、特定のがん細胞を認識し攻撃するよう遺伝子改変し、再び患者に戻す治療法である。キムリアは2019年には日本でも販売が開始されたが、一回3349万円という高額な薬価が大きく報道されている。

さらに新たながん治療法として期待されているのが、米国立がん研究所・小林久隆博士らの研究グループが開発した光免疫療法である。まず、近赤外光線の光で化学反応を起こす小さな色素(IR700)を付加した上皮成長因子受容体(EGFR)に対する抗体を、がん細胞の表面に結合させる。そこに近赤外光線を当てると、IR700ががんの細胞膜を破壊してがん細胞を死滅させる。腫瘍マウスでの実験では、抗体注射後に50-100J/cm2の線量の近赤外光線を腫瘍に照射すると、7日後には非照射の対照群と比較して顕著な腫瘍抑制効果がみられた。現在楽天メディカルが、頭頸部がんに対する光免疫療法の治験を進めており、2019年には厚生労働省の先駆け審査指定制度(画期的な新薬などについて優先的に取り扱い、審査の期間の短縮を目的とする)の対象にされており、早期の実用化が期待されている。

近年は、がん細胞の検出・診断・治療にナノ粒子を活用する研究が盛んに行われている。効果的な抗がん剤治療のためには、腫瘍を狙い撃ちして薬剤を運搬、放出させるドラッグデリバリーシステム(DDS)が重要であり、ナノ粒子を用いた研究が進められている。がん細胞は正常細胞よりも温度が高いことが知られており、2017年に九州大学の唐澤悟准教授らのグループは、温度応答性ナノ粒子を開発し、マウスの実験で温度が高いがん組織に粒子を集積させることを可能にした。東京大学・内山聖一助教らは細胞内の温度を計測する蛍光ナノプローブを開発しており、細胞内の温度を可視化できるようになった。今後はナノプローブにより体内で温度の高いがん組織を検出し、がん組織特異的なDDSの実現が期待される。ナノ粒子によるがん治療に関しては、名古屋大学の森田康之准教授らや、スイス・ETHのSotiris Pratsinis博士らが、それぞれ発熱する金属ナノ粒子を開発しており、がん細胞・組織にナノ粒子を誘導したところ、加熱による死滅が可能であることを示している。

今後のがん医療は、低侵襲性・非侵襲性の診断方法が発展し、これまで以上にがんの早期発見が可能になると期待される。また、遺伝情報に基づき、患者一人一人に対して最適な治療を選択するプレシジョン・メディシンがより一層現実化してゆくと考えられる。一方で、治療法が未だ確立されていない小児がん、希少がん、難治性がんなどに関わる研究についても、技術革新による解決が求められている。

主な技術要素

リキッドバイオプシー、CT、MRI、超音波検査、生検、がん関連遺伝子パネル、三次元原体照射、強度変調放射線治療、画像誘導放射線治療、定位放射線治療、定位手術的照射、陽子線治療、重粒子線治療、密封小線源治療(組織内照射、腔内照射)、非密封放射線同位治療(内用療法)、光免疫療法、代謝拮抗剤、アルキル化剤、抗がん性抗生物質、微小管作用薬、白金製剤、トポイソメラーゼ阻害剤、分子標的治療薬、ホルモン療法、免疫チェックポイント阻害剤、サイトカイン療法、免疫賦活剤、共刺激分子に対するアゴニスト抗体、細胞医療、エフェクターT細胞療法(CAR-T療法など)、がんワクチン療法(樹状細胞ワクチンなど)、腫瘍溶解性ウイルス、抗体医薬、核酸医薬、縮小手術、腹腔鏡下手術、胸腔鏡下手術、血管内手術、ロボット支援手術、動脈塞栓術、不可逆電気穿孔法(ナノナイフ)、再建手術、覚醒下手術、病理迅速診断、麻酔科学、終末医療、緩和医療、再生医療、プレシジョン・メディシン、パノミクス、ゲノミクス、メタボロニクス、マイクロバイオーム、エピジェネティクス、オルガノイド、3Dバイオプリンティング、CRISPR-Cas9、ペイシェント・ジャーニー、医療技術評価(HTA)、医療ビッグデータ、機械学習、スマート治療室

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